2024/08/18
私は兵器や安全保障に詳しいわけではありませんので、あくまで一個人として危機感を感じているのでそれを書かせていただきます。核兵器、ロケット、ミサイルなどの各種兵器の開発において、いかに精密な部品を製造するか、機械要素技術というのは必要不可欠なものです。これは素人の私でもわかることです。なぜ、アメリカなどの西側先進国が兵器開発において世界をリードできるのか、その理由の一つが、それらの国が日本製、欧州製の工作機械で加工できるからです。例えば高性能バルブなどの設計ができたとしても、複雑な形状のバルブをμオーダーの精度で加工できなければ意味がありません。中国には数百の工作機械メーカがあるはずですが、わざわざDMGの機械を使っているということは、まだまだ日本/欧。製の機械に劣っていることを自身で証明しているようなものです。
過去にも同様の問題は起こっています。有名なものが二つあります
37年前、1987年に発生した事件で、当時のココムでソヴィエト連邦への輸出が禁止されていた多軸制御の大型立旋盤8台が伊藤忠商事と、もう1社の販売店を介して輸出販売されてしまいました。この問題は当時大問題となり、親会社の東芝の会長と社長が辞任する事態にいたりました。悪質だったのは、東芝機械、伊藤忠、販売店が意図的に情報を捏造して輸出したことです。これが、DMGの事件とは根本的に異なる点です。なんと、彼らは経産省に対してこれらの機械を、禁止対象ではない2軸制御であると偽って輸出許可申請したのです。今考えると信じがたいことです。
結果的に、これらの立旋盤はソヴィエトの潜水艦のスクリューの静音化に大きく寄与されたといわれています。高精度のスクリューを加工できるようになり、アメリカのソナーにひっかりにくくなってしまったのです。当時冷戦真っ最中の中、西側諸国の同盟国である日本の大企業がこのような国益に反する行為をとったとは、本当に恐ろしいことです。社会的制裁を受けて当然でしょう
2006年に発覚した問題で、ミツトヨが輸出規制対象である高精度三次元測定機を、なんと経産省へ輸出許可申請せずに複数台輸出していたのです。マレーシアの同社現法からリビアを中継して、最終的には数台がイランに輸出されたことが発覚しています。ちなみにイランはその間に低濃縮ウランの製造に成功しています。リビアはイランだけでなく北朝鮮とも密接な関係をもっており、これらの三次元測定機が北朝鮮に渡っていないという確証はありません。このニュースはNHKのトップニュースにもなっていたことを覚えています。。当時のミツトヨ社長らが逮捕されています。日本だけでなく、世界の危機に一役買っているので、当然の報いでしょう。ミツトヨはその後、約3年間、三次元測定機の輸出を禁止されました。
結局、機械を売る側のモラルが著しく低いとしかいいようがありません。機械メーカにしろ、商社にしろ、それらの行為にどれだけのリスクがあるのか、真剣に考えていなかったのでしょう。売れればいい、売るためには多少の違法行為もばれなきゃいい、という空気が会社にあったのでしょう。過去の話とはいえ、なんと悲しく情けないことでしょう。自分たちの行為が国益に反するうえに、下手すると世界中の人々を生命の危機に陥れるというのに、、、。
先のDMG森精機の事件は、東芝機械やミツトヨのものとは根本的に異なります。中国に流れた5軸機は、日本製ではなく旧DMG製のもので、移設検知機能はなかったようです。10年以上前に販売された機械の転売状況を正確に把握するのは不可能でしょう。森精機は本件以降、中国向け機械にも全て移設検知機能を装備することを決定し、100件以上のキャンセルがあったようです。問題を起こしてしまったとはいえ、その対応は適切でると思います。森精機は世界一の規模のメーカですが、その他のすべての機械メーカも、厳格に管理してほしいです。そして、メーカだけでなく、商社、販売店も、目先の利益に惑わされず、少しでも懸念があるならそこに目をつぶらず、経産省の役人になった気分で真剣に調べてほしいです。売れればいい、というものではないのです。
特に、日本工作機械メーカにとって中国は最大の輸出国であり、中国の景気に業界の景気も左右される現状です。だからこそ、過去の事件を忘れず、特に中国向け取引いは細心の注意を払ってほしいです。工作機械業界全体が啓蒙活動に今まで以上に力をいれることを祈ります。
つい最近、パリ五輪にてメダルを獲得した早田ひな選手の記者会見を見ました。記者の「どこに行きたいか」という質問に対して、「鹿児島の特攻資料館」と答えたのです。続いて「生きていることを、そして自分が卓球をこうやって当たり前にできているということは、当たり前じゃないというのを感じたい」と仰いました。24歳のメダリストの発言に感服、感動した人は多かったでしょう。私もその一人で、このコラムを書きたくなった次第です。