2024/08/25 機械メーカ
工作機械ドットコムでは、各主力メーカーのファイバーレーザの機種についてまとめています。
この業界に関わる方にとっては常識な話ですが、ここ10年くらいで金属のレーザ切断の世界はがらりと変わりました。それまで数十年はCO2が主流(というよりもそれしかなかったに近い)が、2010年頃のファイバーレーザの出現により、一気にゲームチェンジが起こりました。ファイバーはCO2に比べて、速度が段違いに早く、電力消費量は約1/3、メンテナンス性も良いなど多くの利点があります。一部のステンレスなどの切断においてはCO2の方が品質が良いなど、CO2の優位点もあるのですが、それを大きく補うファイバーの利点のおかげで、あっという間に普及しました。おそらく世界で売れているレーザ切断機の9割以上(99%?)はファイバー、日本は比較的CO2がまだ残っていますが、それでも2割以下なのではないでしょうか?
CO2が良いか、ファイバーが良いか、の議論をすると長くなるので、今回は高出力について書きたいと思います。ファイバーの更なる利点として、高出力が容易、というものがあります。CO2の頃は、普及機は2-4kW、6kWになるとすごく大きいね!という印象でした。それが、ファイバーになると年々高出力化が進んでいます。日本で流通しているメーカーでいうと、アマダ、三菱は12kW、ヤマザキマザックが20kW、トルンプは24kW、バイストロニックが30kWだそうです。そして、日本で売っているかどうかは分かりませんが、中国のPENTAというメーカーは60kWだそうです!
いやーすごいですね...60kW...。レーザ光が機械を突き破って工場のフロアをぶった切らないか心配です。しかし冗談ではなく、高出力になればなるほど加工機、加工ヘッド、チラー、その他の機械部品への負荷も当然大きくなるので、「壊れやすくなる」のは確実でしょう。ファイバーレーザ発振器そのものは、近年の半導体の発展により比較的壊れにくいようと想像します。(中国製はよく分かりませんが)。ただ、その他のキーパーツ、特に加工ヘッドなどは、とんでもない熱とエネルギーに耐えなければならないので大変でしょう。実際、アマダなどの日本メーカがまだ12kWまでしかリリースできていないので、それらの周辺部品の耐久性に不安があるからなのではないのかな?と予想します。
統計がないのであくまで予想ですが、、、少なくとも国内での主流は6kW前後だと思います。もちろん、出力が高くなればなるほど機械も高くなるので、予算の問題もあるとは思いますが、そもそも10kW以上の高出力が必要なユーザ層が少ないです。日本の板金ユーザの多くは薄板メインであり、それを切断するためには6kWだろうが30kWだろうが、はっきり言ってほとんど違いはないはずです。無駄に高額な高出力レーザを買う必要もないし、ファイバーレーザの売りである「省エネ」の部分がなくなってしまうと本末転倒です。
いや、全然そんなことはありません。国内では6kW前後が売れすぎだと予想しましたが、海外ではそんな事はないと思います。なぜなら、少量多品種ユーザが多い日本と違い、海外では生産性が何よりも重視される傾向があるからです。特に鉄の中厚板(6mmとか)以上の材料をメインで切断するような、建設機械、農業機械のユーザでは出力が高ければ高いほど比例するように速度が上がっていくので魅力でしょう。また、鋼材関係のユーザが、20mm以上の厚板を切る場合は、20、30kWといった超出力レーザのポテンシャルをフルに引き出せるでしょう。
いわゆる精密板金とよばれるユーザ層(アマダが一番得意な業界)においては引き続き6kWまでのレーザで十分なのではないでしょうか?しかし、厚板を切るような業界、これまでプラズマとかガス溶断を使っていたようなユーザにとっては高出力レーザは普及していくでしょう。
そして安価な中国製の高出力レーザがすこしづつ日本でも普及しています。これらはまだまだ品質とサービス面で問題があるようですが、それらの問題をクリアしていくと、一気に広がる可能性もあります。現に、日本以外の東南アジアや韓国などでは、既に市場で大きな存在感をもっているそうです。日本人は品質重視(過剰なサービス重視?)なので、中国勢が一気に広まるとは思えませんが、どうなるかは分かりませんよね